生命保険と相続放棄
相続放棄をした場合でも、死亡保険金を受け取れる?
ご相談が多いケースのひとつに、死亡保険金の取扱いに関するものがあります。
相続放棄をすれば、プラスマイナス問わず、一律に財産を放棄する訳ですから、死亡保険金も受け取れないように思われますが、生命保険金【死亡保険金】は契約上の責任として、保険会社が支払う義務を負っているため、相続放棄をした方であっても受け取ることが可能です。
つまり、被相続人が生命保険をかけており、受取人に相続放棄をした方が指定されていた場合には、仮に被相続人が債務超過で、その方のかわりに借金を返済したくないからと相続放棄をしても、保険金だけは受け取れることになります。
しかし、受取人の指定方法や、その他契約条件により異なる可能性はありますので、保険会社に確認をとる必要があります。
〇相続放棄をして生命保険を受け取れる2ケース
ケース1:契約者と被保険者が同じ場合
死亡保険金は相続財産そのものではなく、保険金の受取人自身の固有の財産として扱われるのが原則です。
一例として、死亡保険を次の条件で契約した場合には、死亡保険金は妻自身の財産となるため、相続財産としては取り扱われません。
そのため、妻が相続放棄をしたとしても、妻は死亡保険金を受け取ることが可能となるわけです。
契約者:夫で保険料負担者
被保険者:夫
死亡受取人:妻
ケース2:受取人の指定がない場合
受取人指定が全くない場合には、保険約款にて被保険者の相続人に支払うとして定める条項の適用を受けるため、保険金受取人が相続人と指定した場合と同じ扱いとなります(最高裁昭和40年2月2日判決)。
相続人が複数いる場合には、遺言等で特段の指定がない限り、法定相続分で分割されるという考えもありますが、保険約款の多くには均等の割合で受け取ると定められているようですので、原則としてそれに従うこととなります。
その点のポイント
死亡保険金が相続財産と扱われるか否かとは別に、税務当局との関係では、死亡保険金はみなし相続財産となり、相続税の課税対象となります。
一旦相続財産ではないと結論づけておきながら、税務当局との関係では相続財産としてみなされるのは奇妙な感覚を覚えるかもしれませんが、相続財産として取り扱うべきか否かの議論が相続人間の紛争解決のための理屈であるのに対して、相続財産とみなされるか否かの議論は、公権力が税金を適切に徴収するための理屈であるため、別個に考えなければいけません。
したがって、死亡保険金は相続税の課税対象となりますので、注意が必要です。
△相続放棄をして生命保険を受け取れないかもしれないケース
既に死亡した方が受取人である場合
生命保険金の受取人が既に亡くなっており、その受取人の相続に関して相続放棄をした場合には、放棄をした方は生命保険金を受け取ることができません。
たとえば、祖父Aが死亡した時点で受取人である父親Bが既に死亡しており、かつBの子であるCがBの相続に関して相続放棄をしたような場合です。
この場合、Cは受取人本人ではありませんので、直接に生命保険金請求を保険会社にすることはできません。Cは既に亡くなったBが有する保険金請求権を相続する権利を有していたものの、それを放棄したことになるからです。
死亡退職金・遺族年金・年金はどうなるのか?
死亡退職金に関して
死亡退職金とは、企業の退職金であり、役員や従業員が死亡した際に支給されるお金ですので、形式的には相続が発生した後に発生しており、かつ受取人指定などがなされている場合などは相続財産に含まれないとして、原則として生命保険金と同様に、相続人自身の財産として取り扱われます。したがって、相続放棄をしても、放棄をした者は原則として受け取ることができますが、賃金の後払い的性格が強いなどの特段の事情があれば、相続財産として扱われる可能性もあるでしょう。
もっとも、死亡退職金は、死亡した被相続人の労働の対価的性格を有するため、税務当局との関係では、みなし相続財産として相続税課税の対象となる点も、生命保険金と同様です。
遺族年金に関して
遺族基礎年金と遺族厚生年金の2つがあります。いずれも被保険者が無くなった際に支給されます。
これらは遺族固有の財産であり、相続財産としては扱われませんので、相続放棄をしても受け取ることができます。
未支給年金について
未支給年金とは本来であれば受給されるはずであった被相続人の年金で、まだ受け取っていない分の年金のことです。年金は1月分と2月分を3月に支給されるといった「後払い方式」が取られます。その結果、死亡後に未支給分が発生することが通常です。
未支給年金の受給権者は、各年金関連法令によって定められており、被相続人の死亡時に生計を同一としているとともに、被相続人の配偶者、子、父母、孫、祖父母、または兄弟姉妹の順位で受給できるとされています。
この受給権は、「相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた・・・請求権が・・・別途相続の対象となるものでないことは明らか」(最高裁平成7年11月7日判決)として、相続性が明確に否定されるに至り、受取人固有の財産として扱われることとなりました。
それにより、相続放棄の影響を受けることがなく、放棄をした場合であっても需給をすることができます。
また、未支給年金については、死亡保険金や死亡退職金と異なり、みなし相続財産としても扱われませんので、相続税の対象とはなりません。もっとも、受取人個人の一時所得として、所得税課税の対象にはなる点はご注意ください。
なお、一時所得は、他のものと合算して年間50万円を超える場合に限り課税対象となる点もご注意ください。